自治体システム標準化とは?具体的な効果から実践方法までくわしく解説

近年、デジタル社会の実現に向けた自治体システムの標準化が大きな転換点を迎えています。
2021年5月に制定された「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」では、全国の自治体は2025年度末までに基幹システムの標準化移行を目指す方針が示されました。これは行政サービスのデジタル化を加速させ、市民サービスの向上と業務効率化を目的として打ち出されたものです。
しかし、2024年3月にデジタル庁が発表した移行困難システムの把握に関する調査では、1,788団体のうち171団体(10%)が特定移行支援システムを有するとされています。現状として、いまだ多くの自治体がシステム標準化に取り組んでいる段階です。
そうした中で、2024年12月にはデジタル庁より標準化基本方針が改訂され、一部システムの移行スケジュールや支援基金設置を5年延長することが示されています。
本記事では、自治体システム標準化の基本的な考え方を改めて整理し、実務での課題や対応策についても解説します。
自治体システム標準化の全体像
自治体システムの標準化は、単なるシステムの統一化ではなく、デジタル社会の実現に向けた政府の重要施策のひとつです。この施策がなぜ必要とされ、どのような効果が期待されているのか、その全体像を解説します。
自治体システム標準化の位置づけと背景
現在、デジタル庁・総務省が中心となって「デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及」という政策を推進しています。これは「誰一人取り残さないデジタル社会」の実現を目指す取り組みの一環であり、その中核となるのが自治体システムの標準化です。
自治体システム標準化の必要性は、新型コロナウイルス感染症対応において顕在化しました。自治体ごとに異なるシステムを採用していることが原因で、特別定額給付金の支給遅れをはじめとするさまざまな課題が発生したためです。これを受けて、同省庁では、標準化の実現に向けた時間的なゴールを設定し、要件や法律の整備を進めています。
自治体システム標準化の対象となる20業務の概要
自治体システム標準化の対象となるのは、住民生活に直結する20の基幹業務システムです。2021年2月に17業務、2022年1月に3業務の計20業務を標準化の対象と定めました。
住民基本台帳関連業務
- 住民基本台帳システム:住民票の編成や管理を行うため、住民の氏名・生年月日・住所等を記録、管理するシステム
- 国民年金システム:20歳以上の住民が加入する国民年金に関する業務を管理するシステム(※標準化の対象は自治体が行う法定受託事務及び協力連携事務)
- 選挙人名簿管理システム:選挙人名簿や投票の管理など選挙関連業務の効率化を図るシステム
税関連業務
- 固定資産税システム:固定資産税の賦課・徴収を行うため固定資産の評価や課税台帳等を管理するシステム
- 個人住民税システム:個人住民税の賦課・徴収を行うため課税対象者の所得等を管理するシステム
- 法人住民税システム:法人住民税の賦課・徴収を行うため法人の申告情報等を管理するシステム
- 軽自動車税システム:軽自動車税の賦課・徴収を行うため軽自動車の登録情報等を管理するシステム
福祉関連業務
- 国民健康保険システム:他の医療保険に加入していない住民を対象とした医療保険制度の被保険者の資格等の管理を行うシステム
- 障害者福祉システム:障害者手帳や各種手当に関する情報等の管理を行うシステム
- 後期高齢者医療システム:後期高齢者医療制度に関する資格情報等を管理するシステム
- 介護保険システム:介護保険制度に基づく被保険者情報や要介護認定情報等を管理するシステム
- 生活保護システム:生活保護制度に基づく申請・決定、ケースワーク等業務を管理するシステム
子育て支援関連業務
- 児童手当システム:児童手当制度に基づく受給資格者や支給対象児童の情報等を管理するシステム
- 児童扶養手当システム:児童扶養手当の支給事務に関する業務を管理するシステム
- 子ども・子育て支援システム:子どものための教育・保育給付や子育てのための施設等利用給付などに関する業務を管理するシステム
戸籍関連業務(2022年1月追加)
- 戸籍システム:戸籍の編成、管理等を行うシステム
- 戸籍附票システム:住民基本台帳制度上の戸籍の附票事務を管理するシステム
- 印鑑登録システム:印鑑登録証明業務等を管理するシステム
その他の基礎的行政サービス業務
- 健康管理システム:地方自治体が行う健康教育や健康相談などの健康増進事業等を管理するシステム
- 就学システム:地方自治体が行う学齢簿編成や就学補助業務を管理するシステム
これらのシステムは密接に連携しており、たとえば住民基本台帳システムは他のほぼすべてのシステムの基盤となっています。標準化によって、システム間のデータ連携がより効率的になり、行政サービス全体の質の向上が期待されています。
標準化の移行期限と実施工程
当初は2025年度末という移行期限に向け、各自治体は段階的に準備を進めていました。しかし、2024年12月にデジタル庁より標準化基本方針が改定され、移行スケジュールに関する重要な変更が示されました。
とくに「特定移行支援システム」(現行システムがメインフレームにより構成され移行に相対的に時間を要する場合や、現行事業者が開発から撤退し代替事業者が見つからない場合など、移行の難易度が極めて高いシステム)については、2026年度以降の移行を目指すことになりました。これらのシステムについては、デジタル庁および総務省が、自治体から把握した状況や移行スケジュールを踏まえ、おおむね5年以内に標準準拠システムへ移行できるよう積極的に支援することが明確化されています。
補助金については、標準準拠システムへの円滑な移行を支援するための、デジタル基盤改革支援基金の設置年限(当初2025年度末)について、5年延長を目途に検討されています。この基金により、システム移行に必要な調査準備、データ移行、環境構築、テスト・研修などの費用が補助され、令和5年補正予算では5,163億円が計上されています。これにより、自治体が標準準拠システムへの移行を確実に完了できるよう、補助金による支援も拡充されています。
標準化を支えるクラウド基盤とセキュリティ
デジタル庁は「ガバメントクラウド」を自治体システムの標準化を円滑に進めるための基盤として位置づけています。このクラウド環境の活用により、各自治体が個別にシステム基盤を構築・運用する必要がなくなり、コストの最適化が期待できるとしています。
さらに、情報セキュリティの面でも万全の対策が講じられています。クラウドサービスの調達においては、政府の統一的なセキュリティ評価制度である「ISMAP(Information system Security Management and Assessment Program)」に基づく認証が求められます。この制度により、セキュリティ水準の高いクラウドサービスの選定が可能となり、住民情報を扱う自治体システムに必要不可欠な安全性が確保されます。
このように、標準化の取り組みは、単にシステムの統一化を目指すだけでなく、最新のクラウド技術の活用と高度な情報セキュリティの確保を通じて、より安全で効率的な行政サービスの実現を目指しています。
「ガバメントクラウド」「ISMAP」についてくわしくは以下の記事をご覧ください。
標準化による具体的な効果と可能性
システムの標準化は、自治体の業務改革を加速させ、さまざまなメリットをもたらします。ここでは、標準化によって期待できる具体的な変化についてご紹介します。
システム運用コストの削減
標準化対象事務に関する情報システムの運用経費等について、標準準拠システムへの移行完了後に、2018年度比で少なくとも3割の削減を目指す目標が設定されています。個別カスタマイズの削減や共通的な保守・運用体制の構築により、コスト最適化が期待されています。
また、ガバメントクラウドの活用によりハードウェアやソフトウェアの整備・管理負担が軽減され、スケールメリットを活かした経済性の向上と最新技術環境の利用が可能になります。この取り組みにより、削減できた予算を住民が必要としている業務や地域への企画立案業務等、本来職員がおこなうべき業務に注力できるようにすると、基本方針にも記されています。
ベンダー選択の自由度向上
標準仕様に準拠したシステムを導入することで、特定のベンダーに依存しない「ベンダーロックイン」を防げるとされています。従来は、多くの自治体がそれぞれの業務仕様に合わせるカスタマイズをすることで、システムの更新時に移行検討コストが増加したり、独自仕様が移行時の制約となる課題がありました。しかし、標準化を進めることで、こうしたベンダーロックインの問題が解消され、システム更改時の選択肢が広がるとされています。
これにより、よりよい条件でのシステム調達が可能となり、革新的なベンダーを選択しやすくなります。また、新規ベンダーの参入が増えることで市場の競争が活発になり、技術革新の加速やコストの適正化も期待されます。
システム間連携の円滑化
標準化されたデータ形式や連携仕様により、異なるシステム間のデータ連携が円滑になることが期待されています。従来は部門間連携や自治体間データ交換に複雑な変換処理が必要でしたが、データ要件・連携要件の統一により、これらの障壁が取り除かれます。
データ要件・連携要件の統一が実現することで、住民基本台帳、税務、福祉など複数業務領域にまたがる住民サービスがシームレスに連携可能になり、窓口手続きの簡略化や処理時間短縮に繋がります。また、国と地方公共団体間のデータ連携も効率化され、災害時における緊急対応も迅速なサービス提供が可能となるでしょう。
業務効率の向上
国は、行政のあらゆるサービスを最初から最後までデジタルで完結させ るために不可欠なデジタル3原則として、デジタルファースト、ワンスオンリー、コネクテッド・ワンストップを掲げています。標準化においてもそれらを考慮し、業務改革(BPR)やデジタル処理を前提としたデジタル基盤が整備されます。
また、制度改正や突発的な行政需要への緊急対応等のために標準準拠システムを改修する場合には、国が標準化基準を策定または変更することとなるため、地方公共団体が個別に対応する部分が削減されます。
これらの効果により、標準化は地方公共団体の人的・財政的負担を軽減し、地域の実情に即した住民サービスの向上に注力できるよう整えます。また、新たなサービスの迅速な展開を可能にするデジタル社会の基盤として、重要な役割を果たします。
標準化への実践的アプローチ
実際の標準化推進にあたっては、体系的なアプローチが必要です。ここでは具体的な進め方のポイントを解説します。
現行システムの実態把握と分析
標準化の第一歩として、まず現行システムの詳細な分析をおこないます。業務フローの可視化、カスタマイズ状況の把握、データ移行の課題整理などを通じて、現状を正確に把握することが重要です。各自治体ごとに異なる運用ルールや業務プロセスが存在するため、それらがシステムにどのように反映されているのかを明確にする必要があります。
この分析結果は、その後の移行計画策定の基礎となり、プロジェクト全体の成否を左右する重要な要素となります。
標準仕様との整合性評価
国が示す標準仕様と現行システムの機能を比較し、どの部分にギャップがあるのかを明確にすることが求められます。単に機能の有無を確認するだけでなく、業務プロセス全体を見直し、標準仕様に適合させることで、より効率的な運用を実現できる可能性があります。この評価結果に基づき、業務プロセスの変更範囲を明確にし、追加対応が必要な機能を特定していきます。
とくに、法令に基づく独自施策や、地域特有の業務への対応については慎重な検討が必要です。標準仕様との適合を進めるとともに、自治体ごとにおこなっていた独自の対応を継続可能するためには仕組みの検討も必要です。
データ移行計画の策定方法
データ移行は、標準化プロジェクトのなかでもとくに重要なフェーズのひとつです。移行計画の精度が低いと、業務への影響が大きくなり、システム稼働後のトラブルの原因となるため、慎重な準備が必要です。現行データの精査、移行ルールの設定、テスト計画の立案等、綿密な準備が求められます。
とくに、データの整合性や正確性を確保するために、移行前のデータクレンジングが不可欠です。また、過去データの取り扱いについても、どこまで移行するのか、どの形式で保存するのかといった方針を早い段階で定めることが重要です。
段階的移行のプロセス設計
すべてのシステムを一斉に移行することは、業務負担やシステム障害のリスクが高いため、現実的ではありません。そのため、業務への影響度やシステム間の依存関係を考慮し、段階的な移行計画を立案することが求められます。たとえば、まずは特定の業務システムから移行を開始し、順次拡大するアプローチを取ることで、リスクを最小限に抑えることが可能です。
また、各フェーズで十分な検証期間を確保し、テストを通じて問題点を洗い出すことも欠かせません。移行後もスムーズに業務が運用できるよう、職員への研修やサポート体制の整備も重要なポイントとなります。
このように、標準化の推進には、現状の正確な把握、標準仕様との適合性の評価、慎重なデータ移行計画、そして段階的な移行プロセスの設計が不可欠です。
まとめ
自治体システムの標準化は、デジタル社会における行政サービスの在り方を大きく変える転換点となります。確かに、移行期限や予算確保など、多くの課題が存在しますが、標準化がもたらす効果は、これらの課題を克服する価値があります。
重要なのは、標準化を単なるシステム更改としてではなく、業務改革の機会として捉えることです。全庁的な推進体制を整備し、計画的な取り組みを進めることで、より効率的で質の高い行政サービスの実現が可能となるでしょう。
また、標準準拠システムへの移行完了後には、運用コストをモニタリングして、継続的な改善に取り組み、コスト削減につなげることが必要となります。最近の基本方針改定では移行期間の延長や支援基金の拡充など、より現実的な移行スケジュールへの対応が進んでいます。
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