インターネット上のサイバー攻撃が年々増加するなか、企業のWebサイトやWebアプリケーションを標的とした攻撃も高度化しています。とくにWebアプリケーションの脆弱性を狙った攻撃は、情報漏えいやWebサイト改ざんといった深刻な被害をもたらします。
このような状況下で注目を集めているのが「WAF」(Web Application Firewall)です。WAFは従来のファイアウォールでは防げないWebアプリケーション層の攻撃から、企業の大切な資産を守る重要なセキュリティ対策として位置づけられています。
本記事では、WAFの基本概念から導入メリット、効果的な運用方法までくわしく解説します。

➡︎ WAFって必要?重要性をわかりやすく解説

WAFの基本概念と仕組み

WAFの仕組みや特徴には、従来のセキュリティ対策との違いがあり、それぞれの特性を理解することが重要です。Webアプリケーションを守るための専門的な防御機能について解説します。

WAFの定義とWebセキュリティにおける役割

WAF(Web Application Firewall)は、Webアプリケーションを保護するための専用セキュリティ対策です。一般的なファイアウォールがネットワーク層でのアクセス制御をおこなうのに対し、WAFはアプリケーション層(OSI参照モデルの第7層)での通信内容を検査します。具体的には、Webサイトやアプリケーションへのリクエストを監視し、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの攻撃パターンを検出して遮断する役割を担っています。

Webアプリケーションは顧客情報やクレジットカード情報など重要なデータを扱うことが多く、標的にされやすい特性を持ちます。WAFはこうした重要なアプリケーションの前段に配置され、「守りの最前線」として機能します。

ファイアウォールやIDS/IPSとの違い

WAFと混同されやすいセキュリティ対策に、ファイアウォールとIDS/IPSがあります。これらは守る範囲や目的が異なるため、正確に理解することが重要です。

ファイアウォールは、IPアドレスやポート番号などの通信経路の制御をおこない、ネットワーク層(第3・4層)での保護を提供します。例えるなら、ファイアウォールは飛行機に乗る前のパスポートチェックのようなもので、「誰が通信しているか」を確認します。

IDS(Intrusion Detection System:不正侵入検知システム)とIPS(Intrusion Prevention System:不正侵入防止システム)は、OSやミドルウェア層(第5・6層)への攻撃を検知・防御します。IDSは不正アクセスを検知して管理者に通知し、IPSはさらに不正アクセスを遮断する機能を持ちます。

一方、WAFはアプリケーション層(第7層)に特化し、HTTPリクエストの内容を詳細に分析します。飛行機の例でいえば、手荷物検査のように「通信の中身」を精査するイメージです。WAFはWebアプリケーションの脆弱性を突く攻撃に特化した対策であり、ほかのセキュリティ製品では代替できない重要な役割を担っています。

WAFの動作原理(ブロックリスト型と許可リスト型)

WAFの動作原理は大きく分けて「ブロックリスト型」と「許可リスト型」の2つがあります。

ブロックリスト型は、あらかじめ定義された不正なパターン(シグネチャ)と照合して、一致するアクセスを遮断する方式です。既知の攻撃に対して効果的ですが、新種の攻撃には対応できない可能性があります。

許可リスト型は、許可するアクセスパターンのみを定義し、それ以外のすべてのアクセスを拒否する方式です。未知の攻撃にも対応できますが、正規の通信まで遮断してしまう「誤検知」が発生しやすいという課題もあります。

実際の運用では、両方の方式を組み合わせたハイブリッド型も活用されています。サイトの特性や重要度に応じて、適切な方式を選択することが重要です。

WAF導入の効果的な活用法

WAF導入による活用方法は企業によって異なります。情報保護やリスク軽減などさまざまな観点から、WAFの効果的な活用法について紹介します。

情報漏えいやサイト改ざんからの保護

WAFのもっとも基本的なメリットは、Webアプリケーションを通じた情報漏えいやサイト改ざんを防止できることです。とくに個人情報やクレジットカード情報などの機密データを扱うECサイトやメンバーシップサイトでは、WAFによる保護が不可欠といえます。

WAFは24時間365日、常に最新の攻撃パターンを監視し続けるため、セキュリティチームの負担軽減にも貢献します。人的リソースが限られた中小企業にとっても、効率的なセキュリティ対策として注目されています。

脆弱性修正ができない場合の一時的対策

実際のビジネス環境では、Webアプリケーションの脆弱性が発見されても、すぐに修正できないケースが少なくありません。WAFはこうした「仮想パッチ」としての役割も果たします。脆弱性を根本的に解決するまでの間、WAFによって攻撃を遮断することで、急場をしのぐことが可能です。

ただし、あくまで一時的な対策であり、根本的な脆弱性修正と並行して進めることが望ましいでしょう。

セキュリティリスクの可視化と監視強化

多くのWAFは、攻撃の検知ログやレポート機能を備えています。これらを活用することで、自社のWebアプリケーションがどのような攻撃に晒されているかを把握できます。WAFのログ分析により、優先的に対応すべきセキュリティリスクが明確になり、限られたリソースを効率的に配分できます。

また、継続的なモニタリングによって攻撃傾向の変化や新たな脅威を早期に発見でき、セキュリティ対策の質を向上できます。さらに、これらのログデータは監査やコンプライアンス報告の証跡としても活用でき、組織全体のセキュリティガバナンスの強化に貢献します。

WAFで防げるおもな攻撃とセキュリティ対策

WAFは多様なWebアプリケーション攻撃から保護する機能を持っています。おもな攻撃とそれに対するWAFの防御メカニズムを理解することで、効果的な対策が可能になります。

SQLインジェクション対策

SQLインジェクションは、Webアプリケーションの入力フォームなどを通じて不正なSQLコマンドを挿入し、データベースを不正に操作する攻撃です。この攻撃により、データベース内の情報漏えいや改ざん、さらには管理者権限の奪取まで引き起こされる可能性があります。

WAFはSQLインジェクション攻撃に対して、特殊記号の検出と適切なエスケープ処理、典型的なSQLインジェクションパターンの検知と遮断などの防御をおこないます。

クロスサイトスクリプティング(XSS)対策

クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃は、Webサイトに悪意のあるスクリプトを埋め込み、サイト訪問者のブラウザ上でそのスクリプトを実行させる攻撃です。この攻撃により、クッキーの窃取やセッションハイジャック、フィッシングサイトへの誘導などがおこなわれる可能性があります。

WAFはXSS攻撃に対して、スクリプトタグやイベントハンドラの検出とブロック、JavaScriptコードを含むURLパラメータの監視などの防御をおこないます。

DDoS攻撃への防御

DDoS(Distributed Denial of Service:分散型サービス拒否)攻撃は、多数の端末から大量のアクセスを集中させ、サーバーに過剰な負荷をかけてサービスを利用不能にする攻撃です。とくにWebアプリケーション層を狙ったDDoS攻撃(Layer 7 DDoS)に対しては、WAFが有効な防御手段となります。

WAFはDDoS攻撃に対して、異常なアクセスパターンの検知と制限、リクエスト数の制限(レートリミット)、ボットからのアクセスの識別と制御などの防御をおこないます。

WAFの種類と選び方

WAFには複数の種類があり、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。自社の環境や要件に合った適切なWAFを選択することが重要です。

アプライアンス型WAF

アプライアンス型WAFは、専用のハードウェア機器としてネットワーク内に設置するタイプのWAFです。おもに大規模なシステムやエンタープライズ向けに提供されています。

メリット

  • 高いパフォーマンスと処理能力を持ち、大量のトラフィックを扱える
  • 企業のポリシーに合わせた詳細なカスタマイズが可能
  • 社内のネットワーク環境に最適化した設定ができる

デメリット

  • 初期投資が高額(多くの場合、数百万円以上)
  • 設置場所や電源、冷却などの物理的環境が必要
  • 運用・保守に専門知識を持つ人材が必要

アプライアンス型WAFは、セキュリティ要件が厳しく、専門の運用チームを持つ大企業や金融機関などに適しています。

ホスト型(ソフトウェア型)WAF

ホスト型WAF(ソフトウェア型WAF)は、Webサーバー自体にインストールして利用するタイプのWAFです。サーバーのミドルウェア(Apache、Nginxなど)にモジュールとして組み込むケースが多くあります。

メリット

  • アプライアンス型に比べて初期費用が低い
  • 既存のサーバー環境に統合しやすい
  • サーバーごとに個別の保護設定が可能

デメリット

  • サーバーに追加の処理負荷がかかる
  • サーバーごとに導入・設定が必要(管理工数が増加)
  • 大規模なDDoS攻撃には対応しきれない可能性がある

ホスト型WAFは、中小規模のWebサイトや、セキュリティチームが小規模な企業に適しています。

クラウド型WAF

クラウド型WAFは、クラウドサービスとして提供されるWAFで、DNS設定を変更するだけで導入可能なタイプです。近年、もっとも導入が増えている形態です。

メリット

  • 初期投資が少なく、月額課金で利用できる
  • 導入が簡単で、すぐに利用開始可能
  • 運用・保守はサービス提供者が担当
  • 自動的にシグネチャがアップデートされる
  • スケーラビリティが高く、トラフィック増加に柔軟に対応

デメリット

  • カスタマイズ性が比較的低い
  • クラウドサービス障害時の影響を受ける
  • 社内ネットワーク内のアプリケーションには適用しにくい

クラウド型WAFは、IT人材が限られている中小企業や、短期間でセキュリティ対策を強化したい企業に適しています。

自社に最適なWAFを選ぶポイント

WAFを選ぶ際は、以下のポイントを考慮して自社に最適な製品・サービスを選択することが重要です。

  • 予算と人的リソース:導入・運用にかけられる予算と、運用を担当できる人材の有無を考慮します。
  • Webアプリケーションの重要度と規模:扱う情報の機密性や、サービス停止時の影響度を評価します。
  • 既存システム環境との整合性:オンプレミスかクラウドか、使用しているWebサーバーの種類、ネットワーク構成などとの相性を確認します。
  • セキュリティ要件:対応すべき特定の攻撃や、業界固有のコンプライアンス要件があるかを検討します。
  • パフォーマンスへの影響:WAF導入によるレイテンシ(遅延)の増加や、処理能力への影響を評価します。

WAFの導入と運用のポイント

WAFを効果的に活用するためには、適切な導入と継続的な運用が不可欠です。ここでは、WAF導入・運用の主要なポイントを解説します。

導入前の準備と検討事項

WAFを導入する前に、保護対象のWebアプリケーションの棚卸し、現状のトラフィックパターンの把握、社内のセキュリティポリシーとの整合性確認などの準備をおこなうことが重要です。これらの情報は、WAFの容量設計や初期設定の際に役立ちます。

また、WAF導入による影響範囲を把握するためのテスト計画も立てておくべきでしょう。本番環境に適用する前に、テスト環境でWAFの動作確認をおこない、誤検知や遮断による影響がないかを確認します。

効果的な設定とチューニング方法

WAFの初期設定は、まず「監視モード」で開始することをおすすめします。このモードでは、実際に通信をブロックせずに検知のみをおこない、正規の通信が誤って遮断されないかを確認できます。

一定期間(通常は1〜4週間程度)監視モードで運用し、検知ログを分析して誤検知の有無や攻撃パターンを把握します。この期間中に収集した情報をもとに、WAFのルールをチューニングしていきます。

チューニングが完了したら、段階的に「ブロックモード」へ移行します。まずは影響の少ないページや時間帯から始め、問題がなければ徐々に適用範囲を広げていきます。

誤検知・誤遮断への対応

WAF運用においてもっとも頭を悩ませるのが、誤検知(False Positive)と誤遮断の問題です。セキュリティレベルを高く設定すればするほど、正規のアクセスまでブロックしてしまうリスクが高まります。

誤検知・誤遮断が発生した場合は、影響範囲の特定、一時的な回避策の実施、ルールの詳細分析、恒久的な対策の実施といったステップで対応します。

誤検知・誤遮断への対応は、セキュリティとユーザビリティのバランスを取る重要なプロセスです。

まとめ

WAFはWebアプリケーションの脆弱性を狙った攻撃から保護する重要なセキュリティ対策です。SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング、DDoS攻撃など多様な脅威に対応し、情報漏えいやサイト改ざんを防止します。

WAFには、アプライアンス型、ホスト型、クラウド型の3種類があり、それぞれ特性が異なります。自社の環境や要件に合った適切なタイプを選択することが重要です。また、導入後も継続的な監視とチューニングが必要となります。

近年、サイバー攻撃が増加・高度化するなか、WAFの導入は企業のWebセキュリティ対策として不可欠となっています。とくにECサイトや会員情報を扱うWebサービスでは、WAFによる保護を検討すべきでしょう。

さくらインターネットでは、WAFソリューションとして「攻撃遮断くん」や「SiteGuard Server Edition」を提供しています。

Webセキュリティ対策に関するさらにくわしい情報は、ホワイトペーパー「WAFの必要性について」をご確認ください。

WAFの必要性について

セキュリティ対策の中でもニーズが高まるWebアプリケーション用のファイアウォールである「WAF(ワフ)」の必要性について解説します。

2025年4月24日公開